太田忠司 中央公論社
作者の意図した通りに騙されるのはミステリを読む楽しみのひとつであるが、途中に提示されているヒントが少ないとそれも若干薄れてしまうことがある。
本書にも少々その傾向がないだろうか。前半の「懐古趣味的な」描写のあとの終章は、やはりどうしても違和感がつきまとってしまった。
「摩神尊」という名前を持つ「予告探偵」は、太田氏のキャラクターの中では特異な性格だろう。しかし、その傍若無人ぶりにも彼なりに筋が通っているところは著者の誠実さか。
しかし、太田作品以外にならそういった人物はすでに何人も登場しており、周辺を取り巻く人物設定にも残念ながら目新しい部分は見つけられなかった。
読み終わって、「なぜ今太田氏がこれを?」という疑問が湧いてしまったことは否めない。もちろん丁寧に描かれた面白い読み物であることは確かなだけにモヤモヤしたものが残る。
ISBN4-12-500924-4 ¥900+税
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